消化管外科

About us

九州大学第二外科消化管グループでは食道がんや胃がん、大腸がんなどの消化管に発生する悪性腫瘍に対して診断、手術と化学療法を中心とした治療を行っています。また、良性腫瘍やヘルニア、虫垂炎、消化管穿孔や腸閉塞などの良性疾患の診断、治療も行っています。
当科では年間約300例以上の消化管手術を行っており、腹腔鏡手術やロボット手術など体に優しい手術を積極的に推進しております。
 

対象疾患

  • 疾患名1:食道がん
    疫学:食道がんは日本のがん患者さんのうち8番目に多く、がんで亡くなる患者さんの9番目に多い病気です。60~70歳代の男性がかかりやすいと言われています。
    原因:お酒やたばこが一番の原因ですが、他にも様々な要因があるといわれています。
    症状:早い段階では症状はありません。進行した状況では、食べ物がつかえる、声のかすれ、飲み込みにくいなどの症状を自覚することがあります。
  • 疾患名2:胃がん
    胃がんは胃粘膜の細胞が何らかの原因でがん化したものです。日本ではがん患者さんのうち2番目に多く、がんで亡くなる患者さんの3番目に多い病気です
 
  • 疾患名3:大腸がん
    大腸がんは、罹患数、死亡数ともに日本で増加しており、現在大腸がんにかかる患者は全がん患者のうち1位、死亡される患者数は全癌患者のうち2位となっています。

疾患内容1[食道がん]

当科では、1964年に九州(福岡)でいち早く食道がんに対する手術を開始し、これまで約1600例以上の手術を行っています。福岡のみならず、全国にみても有数の診療実績がある診療科です。これまでの多くの診療経験から、食道がんに対する様々な工夫を行い、多くの患者さんのお役に立てることを願って、日々診療を行っています。


●食道がんに対する治療

進行の程度によって、治療法が異なります。ごく早期の段階では、内視鏡(胃カメラ)でがんを取り除けることがあります。それ以外の転移がない食道がんに対する標準的な治療は手術です。進行の程度により、手術の前に抗がん剤治療を行い手術を行います。
わたしたち九州大学第二外科では、食道がんに対して、外科手術のみならず、化学療法や放射線療法も含めた総合的(集学的)治療を提案・提供することができます。がんが大きい場合には、手術前の薬物療法と放射線治療でがんを小さくしてから手術をします。さまざまな理由で手術ができない患者さんには、放射線と薬物療法を組み合わせて、がんを消失させる治療をすることもあります。
 

●食道がんの手術

食道がんの手術は、胸部の手術と、腹部の手術が必要になります。胸部では主に、がんを含む食道を取り除きます(切除)。腹部では主に、切除した食道のかわりになる、食べ物の通り道を作成します(図3)。
術前の準備、術後の管理については、他科やリハビリ、栄養科など、さまざまな職種と連携をとり、チームとして患者さんのケアにあたっています。
 2010年から当科では胸腔鏡手術を取り入れ、2016年には90%以上の症例で胸腔鏡手術を行うようになりました(図4)。2018年からロボット手術を開始し、現在はロボット手術を中心に行っています。
術後は合併症がなく経過すれば、2-3週間での退院が可能です。傷が小さいため、開胸手術に比べて回復が早い傾向にあります。退院したあとも、定期的に再来していただき、引き続き当科で診療を行います。

●食道がんに対するロボット手術

食道がんに対するロボット手術は2018年4月から保険適応となりました。当科では2018年12月から取り入れています。
現在ではロボット手術のプロクター認定をうけた食道外科専門医を中心に手術を行っており、全国でも有数の手術数を行っています(図5、6)。

●ロボット手術の利点

3D画像と通常のカメラよりも拡大視できること、ロボットの鉗子に人間の手と同じような関節機能があることから、これまで以上に精緻で安全な手術を達成することができます。

●さいごに

食道がんは食事摂取や発声といった、生きるうえで非常に重要な機能に影響を及ぼします。わたしたちはがんを治すだけではなく、機能温存や術後の生活まで考慮した治療が必要と考え、「がんを治す」ことと「患者さんの負担を減らす」ことの両立を目指しています。

 

疾患内容 2[胃がん]

当科の胃癌の治療方針

  • 胃癌治療ガイドラインに準拠しながら、それぞれの患者さんにとってベストと思われる治療を一緒に考えています。
    ・    当科では診断、治療(手術・がん薬物療法)、治療後の経過観察まで行っていますので、一貫した治療を受けられます。
    ・    胃癌の根治と体に優しい手術、どちらも大切にして外科治療を行っています。
    ・    体への負担が少ない低侵襲手術を積極的に行っています。
    ・    常に他の診療科と協力の上、合同カンファレンスで治療法を検討しています。
    ・    持病のある方の治療も大学病院内で連携して治療を行っています。
  • 先端的な臨床試験や治験も数多く行っています。是非一度ご相談ください。
胃がんの治療は、内視鏡的切除、手術、がん薬物療法(化学療法)が中心になります。ここでは当科で行っている外科手術とがん薬物療法についてご紹介します。
 

手術

当科では、①根治を目指すこと、②体に優しいこと を大切にして胃癌治療を行っています。①根治を目指した手術には、しっかりとした術前診断と術中の判断が必要です。当科では治療前に放射線科、消化管内科と連携して進行度と病変範囲の診断を行い手術の計画を立てています。必要な場合には、手術で胃癌をきれいに取りきるために術前に内視鏡で印をつけたり、術中に病理医に確認するなどして精度の高い手術を行っています。また進行癌の場合は、手術だけではなく薬物療法を併用した集学的治療(術前化学療法、術後補助療法、コンバージョン手術など)により根治を目指しています。②としては低侵襲手術として鏡視下手術(腹腔鏡やロボット手術)や機能温存手術を行っています。

1.    定型手術:早期がんから遠隔転移のない局所進行がん(StageⅠ-Ⅲ)に対しては、根治を目指した手術を行っています。胃がんに対する根治を目指した定型手術とは、胃の2/3以上の切除とD2(リンパ節をとる範囲の専門用語)リンパ節郭清です。
腹腔鏡手術は傷の小ささと手術の精密さという点で、患者さんにやさしい手術と考えています。実際、腹腔鏡下手術は開腹手術と比べ、術後の回復が早く、がんの治療としても同等とのエビデンスがあります。

2.    低侵襲手術 (MIS : Minimum Invasive surgery):従来の開腹手術に比べて、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術など小さな傷で行える手術の総称です。どちらも内視鏡による拡大視効果で微細な解剖を確認しながら手術を行えます。出血や術後疼痛が少なく、回復が早いことから患者さんのニーズも高く、9割以上の方に低侵襲手術を行っています (図7)。特にロボット手術は手術器具に関節機能や手振れ防止機能がついており、より精緻で出血の少ない手術が可能と考えられています。当科にはロボット支援手術のプロクター(指導医)が2名在籍しており、積極的にこの手法を導入しています。
 

3.    機能温存手術:手術により胃を切除すると、術後は食事量や体重が減ったり、ダンピング症状(めまい、動機や脱力感など)が出現したりと、術後の新しい体がなじむのに時間を要します。胃をすべて取る(胃全摘)のは体への負担が大きく、当院では早期胃がんには、積極的に胃の機能温存を目的とした縮小手術を選択肢としています。実際、胃全摘術を行う割合は大幅に減少しています。2020年は胃温存率80%でした。(図8)
 
胃の上部に早期胃がんが見つかると従来は胃全摘術が行われていましたが、最近では縮小手術として胃の入り口側半分だけを取る噴門側胃切除を行っています。胃が残るので体重の減りを軽減できると期待されています。術後の逆流性食道炎を予防するため、当院では逆流の少ない再建法(観音開き法やダブルトラクト法)を選択しています。胃切除術後は栄養士からの栄養指導を行い、主治医と共に退院後までサポートしています。
また、胃に複数個の腫瘍が見つかった場合でも胃を温存できることがあります。内視鏡治療と外科手術を組み合わせて胃を温存できた患者さんを経験しています。

 

集学的治療

進行胃がんに対しては、手術とがん薬物療法(化学療法、抗がん剤治療)を組み合わせてがんの根治を目指しています。

1.    術後補助療法:手術後に一定期間行う抗がん剤治療のことで、再発予防が目的です。胃がんの場合、手術できれいにがんは取りきれた場合でも、術後に再発することがあります。再発は手術後の体内に隠れているがん細胞が原因と考えられ、術後補助療法を行うことでこの再発の芽を摘んでしまおうという考え方です。いくつかの確立された治療法があり、患者さんにあった治療法を相談して決めています。具体的には癌の進行度や特徴と患者さんの体調や希望を考慮しながら、抗がん剤の種類や量を決定しています。

2.    術前化学療法:周囲への癌の浸潤や多発するリンパ節転移のある切除可能な進行胃がんの患者さんで、術前にがん薬物療法を行ってから手術を行うことがあります。胃切除を行う前に抗がん剤治療を行うことで、十分な量の抗がん剤を安全に投与できる可能性を期待して行っています。

3.    拡大手術:最近では予防的に拡大手術を行うことは少なくなっています。一方で、胃がんが周囲の臓器に浸潤している場合や大動脈の周りのリンパ節に転移がある場合、がんを完全に切除するため他臓器の合併切除や広範囲のリンパ節郭清を行う拡大手術を行うこともあります。多くの場合、術前のがん薬物療法などを併用した集学的治療の一部として手術を行っています。

4.    コンバージョン手術:胃がんで遠隔転移(StageIV)や手術不能な浸潤がある場合は、抗がん剤が第一選択の治療です。一方、近年のがん薬物療法の治療成績向上により、遠隔転移や手術不能な浸潤が治療により軽減し、がんを残さず取りきる手術を行える場合があります。これをコンバージョン手術といい、対象となる患者さんは限られていますが、がんを残さず取りきれた場合は抗がん剤単独の治療に比べ良好な成績を収めています。
 

がん薬物療法(化学療法)

遠隔転移を伴う胃がん、胃がん手術後の再発の患者さんを対象に当科ではがん薬物療法(化学療法、抗がん剤治療)を行っています。がんの進行に伴う症状を和らげることやその発現時期を遅らせることおよび生存期間を延ばすことを治療の目標としています。胃癌の薬物療法は新規薬剤の登場により時代とともに進歩し患者さんの予後に貢献してきました。しかし、まだすべての方を薬物療法で治しきることができる段階には至っていません。現在、一部薬剤の治療効果を予測するマーカー(HER2、MSI、CPS、ゲノム検査など)を利用しつつ、患者さんの状況に合わせて最適な治療法を選択できるよう心がけています。特にゲノム検査については、九州大学は全国に11施設しか指定されていない「がんゲノム医療中核拠点病院」で、当科はその中でも積極的にゲノム医療を推進しています。多くの先端的な臨床試験や治験を行っており、未承認薬でも一定の条件が揃えば使用できることがあります。ぜひ一度ご相談ください。

 

併存疾患のある方への治療

心臓、肺、肝臓、腎臓などに併存疾患があり胃の手術を行うには非常にリスクの高い方にも、治療の可能性を考えています。大学病院には各専門の最高の医師が在籍していますので、心臓に疾患がある方、慢性肺炎がある方、肝硬変がある方や腎疾患で人工透析中の方など、院内の各専門科と胃の治療と同時に相談することができます。必要な時には、併存疾患の治療を先行したうえで、全身状態を整えて手術をすることもあります。また手術のやり方を工夫することで体への侵襲を小さくし、併存疾患に影響を与えず手術ができる場合もあります。
 

疾患内容 3[大腸がん]

大腸がんの治療は内視鏡的切除、手術、放射線療法、薬物療法などの組み合わせによって行われます。一番いい治療を選択することが我々外科医の任務です。当科では大腸がん専門の医師が安心・安全・確実をモットーに最適な治療を行っています。
また、大学病院の特性を活かし、最新の治療にも取り組んでおります。
大腸は大きく結腸(盲腸‐S状結腸)と直腸に分けられます。
結腸がんと直腸がんに分けて当科の手術の特色をご紹介します。
 

●結腸がん

盲腸からS状結腸にできたがん(図10)です。
結腸がんの手術は、よほどがんが大きいものでない限りすべて腹腔鏡で行っており、合併症もほとんどありません。
通常、手術後3日目より食事を開始しています。入院期間は手術後約7-10日です。
★当科の特色
当科では盲腸がんと上行結腸がんに対しては一つの傷で手術を行う単孔式腹腔鏡手術(図11)を行っています。単孔式腹腔鏡手術は整容性にも優れ、痛みも少なく、最短で手術後3-4日で退院できます。
 

●直腸がん

直腸にできたがん(図12)です。
直腸がんの手術は狭い骨盤の中で行うため、結腸癌に比べて難易度が高いとされます。直腸の周りは大事な神経や、膀胱、前立腺(男性)、子宮・卵巣(女性)などがあり、これらを傷つけると様々な障害が起こることがあります。


 
★当科の特色
当科ではDa Vinci(図13)を用いたロボット支援下手術を九州でいち早く導入しております。Da Vinciを用いた手術の特徴は3D画像で手術ができる点と精緻な操作ができる点にあります。
 

当科の合併症対策

直腸がんの手術は結腸がんの手術と比べて技術的に難しく、手術によるトラブルもある程度多く発生します。その中でも頻度が高いのが縫合不全と呼ばれるものであり、全国的にはおおよそ10%程度とされています。
直腸がんを取り除いた後は、残った腸を吻合(腸と腸を繋ぐこと)します。この吻合がうまくいかず合併症を起こすことを縫合不全とよんでいます。縫合不全を起こした場合は入院期間がひと月程度とかなり長くなります。
また、縫合不全は手術後のがんの再発にも影響します(縫合不全を起こした患者さんは再発率が1.7倍も増えると報告されています!!)。
当科では、直腸がん手術の際の縫合不全を防ぐ多くの取り組みを行い、“縫合不全ゼロ”を目指しております(図14)。
 

直腸癌に対する最新の治療

手術がいらなくなる日も近いかもしれません。
当科では放射線科の先生と協力し、進行した直腸癌に対しては術前化学放射線療法も積極的に行っております。大きな直腸癌に対しては手術前にがんを小さくすることにより、手術をやりやすくして、さらに術後のがんの再発を抑えています。最近は術前化学放射線療法に全身化学療法を加える方法(total neoadjuvant therapy ;TNT)も行っております。本治療は欧米では主流となっていますが、日本ではまだ普及していません。当科では臨床試験として本治療を行い、日本への普及を目指しています。

術前化学放射線療法を行った患者さんには、普通はその後全員に手術が行われます。しかし、そのなかには、癌が消えてしまい、結果的に手術を行わないこともあります(図15、16)。そのまま長い方で4年間がんが再発していない方もいらっしゃいます。海外ではこのような手法はWatch and Wait (手術を回避して経過をみる)と呼ばれており、究極の肛門温存法になり得ます。通常の方法とは異なりますが、当院でも患者さんの希望でこの方法を行うことがあります。

●切除不能進行大腸がん、いわゆるStage IVの大腸がん

当科では手術が困難な大腸がんの患者さんも治療しております。例えば、肺や肝臓に転移があり、そのままでは、手術では取りきれないことがあります。そういった方々には抗がん剤を用いた最新のがん薬物療法を積極的に行っています。
手術ができないと判断されても、がん薬物療法や放射線治療を用いて、最終的には手術を行えることもあります。当院はがんゲノム医療中核拠点病院です。薬物療法の選択には、最新のがんゲノムプロファイリング検査(がんゲノムパネル検査)も積極的に行い、常に最新で最良の治療が受けられるように努力しています。

当科には、肝臓外科、呼吸器外科も専門のスタッフが在籍しています。例えばがん薬物療法により肝臓の転移が小さくなった場合、手術ができるか適切な判断ができます。迅速に対応することで、適切な手術のタイミングを失わないようにしております。
 
 

実績

消化管グループでは年間約300例の手術を行って、低侵襲手術を中心に行っております。また、最先端のロボット手術の割合が増加してり、2名のロボット手術指導医(プロクター)が在籍しており、2022年2月現在通算150例のロボット手術を施行しました。