肝臓・脾臓・門脈・肝臓移植外科

About us

消化器・総合外科(第二外科)では吉住教授を中心として、総合外科の利点を生かし、肝臓癌、胆膵疾患、門脈圧亢進症に伴う様々な疾患、肝臓移植、多臓器にわたる難治性疾患の治療を行っています。当科では、歴史的に肝臓癌、門脈圧亢進症、肝臓移植の分野において多くの患者さんの治療に携わっています。特に肝臓・胆道・膵臓の疾患では診断、治療方針の決定、低侵襲手術を中心とした手術療法、薬物療法(化学療法や免疫療法)、各治療後のフォローアップを行っています。ゲノム医療個々の病気の状況に応じた集学的治療(手術療法や、薬物療法、放射線療法といった様々な治療法を組み合わせて治療にあたること)についても積極的に行っています。

肝移植では国内第2位の豊富な経験に基づいて、様々な肝不全、肝細胞癌に対する肝移植治療に積極的に取り組んでいます。肝移植において中心的役割を果たすのは、直接移植手術にたずさわる外科医、麻酔を担当する麻酔医、肝臓内科医、各診療科の医師、および看護師、技師などを含む移植チームです。このチームが総合力として優れた技術と豊かな経験を持っていることが移植を成功させるためには必須です。九州大学ではこれまでに外科医だけでなく麻酔医、看護師、病理医が数多く米国の移植施設で研修を進める一方で、実験・研究を重ね肝移植に対し十分な準備を行ってきました。また、九州大学では、肝臓移植小委員会を設置し、肝臓病、感染症、小児科、外科、小児外科、麻酔、免疫、放射線診断の専門医等の計11名が、肝移植候補者、術後患者1人ひとりをチェックし、倫理的、医学的に正しく肝移植を施行できる様努力しています。

脾臓・門脈外科では、主に脾臓の疾患および門脈系の血行異常に対する診断、治療方針の決定、低侵襲手術を中心とした手術療法、各治療後のフォローアップを行っています。病気の状況に応じた集学的治療(手術療法のみならず、内視鏡治療・血管内治療、薬物療法・放射線療法といった様々な治療法を組み合わせて治療にあたること)を積極的に行い、患者さんに最適な治療が提供できるよう努めております。
 

対象疾患

  • 疾患名1:肝細胞がん
  • 疾患名2:転移性肝がん
  • 疾患名3:胆道がん・膵臓がん
  • 疾患名4:肝移植対象疾患(具体例提示)

疾患内容1[肝細胞がん]

肝細胞がん肝臓から発生する悪性腫瘍のなかで、もっとも多い病気です。肝機能や病気の進行度に応じて肝切除、焼灼療法(ラジオ波焼灼術、マイクロ波凝固壊死療法)、経肝動脈的化学塞栓療法、肝動注化学療法、薬物療法、放射線療法、 肝移植の治療法を行なっています。2000年以降の当科における初発肝細胞癌に対する肝切除術後の5年生存率はstage I79.9%stage II78.4%stage III57.6%stage IVA30.7%です(図1)。

 
患者さんに負担が少ない腹腔鏡下肝切除術を積極的に行なっております。通常の開腹下肝切除術と比べて切開創が小さく、術後の入院期間が短くなります。また、ICG蛍光法を用いたナビゲーション手術を導入しており、腫瘍の同定、過不足のない切除範囲の決定に有用です(図2)。高難易度肝切除に対しても腹腔鏡下肝切除を行っています(図3)。
 
最近、肝細胞癌に対する薬物療法の進歩が目指しい状況です。進行症例においては、全身の状態に応じて治療薬を選択しています。経肝動脈的化学塞栓療法と組み合わせながら、治療効果によっては外科治療を取り入れ、集学的治療を展開しています。


また、2022年6月より最先端の医療用ロボット(da Vinci®)を使用したロボット支援下(図4)での腹腔鏡下肝切除術を導入し、2023年12月までに47例施行しております。術者がコンソールを操作することで術野のロボットアームが稼働し、手術を行います。実際の術者の手の動作の再現性、手振れ補正などによる正確な操作が可能となります。
 

疾患内容 2[転移性肝がん]

転移性肝がんに対しては、原発の病変の特性を十分に理解した上で、転移した肝病変を取り除くことで患者さんへの治療効果が期待される場合に肝切除が選択されます。特に、大腸癌の肝転移の場合、化学療法、分子標的薬の進歩により、肝転移巣が切除可能となれば肝切除を行うことが推奨されています。各診療科と連携し、最適なタイミングで肝切除術が行えるように努めています。
手術方法については、腹腔鏡下肝切除術、多数の病変に対する複数箇所の肝部分切除術(図5)など、それぞれの病態に応じた最適な術式を提供します。当院では、切除残肝容積が不足している場合に有効なALPPS手術といった二期的肝切除術を、医療用ロボットを用いた腹腔鏡下手術(6)でも行っており、病態に応じて低侵襲な術式選択も行っております。

 

疾患内容 3[胆道がん・膵臓がん]

胆道がんは肝内胆管癌(末梢型、傍肝門型)、肝外胆管癌(肝門部領域胆管癌、遠位胆管癌)、胆嚢癌、十二指腸乳頭癌に分類されます。外科手術が根治的な治療となります(図7。局所進行病変に対しては血管合併切除再建を行い、根治性の向上を目指しています(図8)。また、術前および術後化学療法を導入しています。再発症例や切除不能症例に対しては化学療法、放射線療法、臨床試験を各診療科とも連携しながら行なっています。治療効果によっては外科治療を考慮する場合もあります。
膵臓がんに関しては病変部位、進行度を評価し、術前術後化学療法を組み合わせながら最適な術式を選択します。再発症例や切除不能症例に対しては化学療法、放射線療法、臨床試験を各診療科と連携しながら行なっています。


 
 

疾患内容 4[肝移植対象疾患]

非代償性肝硬変
 


 
従来は、肝炎ウイルス(B型肝炎、C型肝炎など)やアルコール多飲などが肝硬変の原因疾患でした。
最近では肥満・糖尿病・高脂血症・高血圧などの生活習慣病と密接に関連する
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の割合が増加してきています。
また、後述する天性代謝異常なども原因として挙げられます。

肝細胞癌 
 

肝細胞癌は通常肝硬変を背景に発生しますが、上記の治療が不可能となった肝硬変に対して、肝移植が適応とされます。ただし、肝細胞癌が進行しすぎると手術を行っても再発をきたしますので、肝移植において保険適応となる肝細胞癌の進行度は限定されています。
 

急性肝不全 

急性肝不全は、元来は正常である肝機能が、急速に(初発症状の出現から8週間以内に)、高度な肝機能障害(プロトロンビン時間が40%ないしはINR1.5以上)が生じ、不穏などの肝性脳症が出現し、肝不全症状を呈する疾患で、内科的に救命が困難と判断された際に、肝移植が適応とされます。
 

原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC) 

原発性胆汁性胆管炎・原発性硬化性胆管炎は、慢性的な胆管の炎症の結果、胆汁うっ滞性肝硬変になります。原発性胆汁性胆管炎は、中年女性に多く、最初はほとんど症状がありませんが、次第に全身倦怠感・かゆみ・黄疸などの症状が出てきます。原発性硬化性胆管炎は、男性にやや多く、発症年齢は30歳、60歳代の2峰性で、胆汁うっ滞による腹痛・発熱・黄疸などの他、潰瘍性大腸炎や胆管癌の合併をきたすことがあります。いずれの疾患も病態が進行した場合、肝移植の適応となります。
 

胆道閉鎖症 

生まれつき胆汁の排泄路である胆道の一部が欠損しているため新生児黄疸の遷延、増強する疾患です。炎症性に肝外胆管組織の破壊が起こり肝外胆管の閉塞が認められます。原因としては先天的要素、遺伝的要素、感染などの種々の説が挙げられていますが未だ解明はされていません。
 

先天性代謝異常症 

肝臓で合成される酵素が生まれつき欠損し、生命が脅かされる疾患です。疾患の種類としては、最多がウィルソン病であり、次いでOTC欠損症(オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、尿素サイクル異常症の一種)、メチルマロン酸血症と続きます。その他に、糖原病、遺伝性高チロジン血症、α1-アンチトリプシン欠損症、家族性アミロイド・ポリニューロパチーなどが挙げられます。代謝性疾患には、肝臓の構造的な異常を招来して肝不全になり得る疾患群 (ウィルソン病など)と、肝臓自体には構造的な異常を起こさない疾患群(尿素サイクル異常症、シュウ酸尿症など)に分けられます。
 

バッドキアリー症候群 

バッドキアリ症候群(Budd-Chiari)とは、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄によって門脈圧亢進症に至る症候群です。その原因として凝固因子異常や骨髄増殖性疾患、または経口避妊薬内服などによる凝固能亢進による血栓形成が挙げられますが、原因不明の非血栓性閉塞による場合も少なくありません。肝臓が慢性的にうっ血をきたすため肝細胞が壊死し線維化が進行し、最終的には肝硬変・肝不全に進展します。
 

多発肝嚢胞

肝臓に主に水分の貯留の袋が多発する疾患で女性に多いです。肝のう胞そのものは良性疾患ですが、 のう胞が増加して巨大になることにより周囲の臓器が圧迫されて呼吸困難や運動制限などが生じます。また、感染やのう胞内出血などの危険性もあり、肝機能に影響を及ぼすこともあります。
 

移植後グラフト不全

肝臓に主に水分の貯留の袋が多発する疾患で女性に多いです。肝のう胞そのものは良性疾患ですが、 のう胞が増加して巨大になることにより周囲の臓器が圧迫されて呼吸困難や運動制限などが生じます。また、感染やのう胞内出血などの危険性もあり、肝機能に影響を及ぼすこともあります。
 
 

疾患内容 5[脾・門脈対象疾患]

脾機能亢進症

脾機能亢進症は何らかの理由で患者さんの脾臓が腫大し、カボチャくらいの大きさになってしまうことで発症する病気です。そのために、食道胃静脈瘤が発生したり、血小板数が減少し出血しやすくなったり、貧血が進行すると治療が必要となります。また症状が無くても、癌の治療を導入・継続するために相対的に脾機能を低下させるため、治療介入が必要となることもあります。

食道・胃静脈瘤

食道や胃の静脈瘤は門脈圧亢進症(主に肝硬変が原因)の一徴候であり、静脈瘤がひとたび破裂し、出血をきたすと致命的となりうる合併症です。食道静脈瘤の場合、出血する確率は10年で約60%であり、出血した場合は出血しなかった場合に比べ生存率が低下することが知られています。
 

門脈血行異常

まれな病気ですが、食道静脈瘤や脾機能亢進症などの門脈圧亢進症と呼ばれる病態を引き起こす門脈血行異常症(主に、1) 特発性門脈圧亢進症、2) 肝外門脈閉塞症、3) バッドキアリ症候群)に対する診断・治療を行っています。これらの病気の原因として、血液が固まりやすくなることや、自己免疫といって、自分で自分の血管に対する抗体を作って攻撃するなどの原因が分かってきていますが、まだまだ不明な点が多い病気です。
当科では厚生労働省特定疾患門脈血行異常症調査研究班の仕事もあわせておこなっておりますので、気軽にご相談下さい。

 

実績

肝切除数実績

当科における肝切除数は1985年以降、総件数3800例を越えています(図1)。年間120例程の肝切除を行っており、全国的にも極めて高い評価を頂いています。腹腔鏡下肝切除においては、2018年以降、年間60例程の腹腔鏡下肝切除術を行っており、腫瘍性病変に対する肝切除の約70%を腹腔鏡下に行っています。2022年からは、医療用ロボットを用いた最先端の術式であるロボット支援腹腔鏡下肝切除を開始しており、症例数を増やしております(図2)。
 

肝臓移植実績

当科における肝臓移植実績です。
当院における肝移植は、平成81014日に胆道閉鎖症の7歳男児に対し1例目を施行して以来、令和512月までに972症例の生体肝移植(成人:821症例、小児:151症例)、84例の脳死肝移植を行い、合計1056例の肝移植を行っており、日本で2番目に多くの患者さんを治療している肝移植施設です(3)。現在、当科では年間5060例以上の肝移植をコンスタントに施行しており、年間の肝移植施行数は日本で有数のハイボリュームセンターです。その手術・術後管理には極めて習熟した専門スタッフがあたっており、移植後の治療経過も全国平均より良好です(図4)。血液型不適合の肝移植にも積極的に取り組んでおり(図5)、70歳以上の肝不全の方を含め、肝臓癌を合併した肝硬変(図6)や肝不全でお悩みの方は、ぜひ当科にご相談ください。

 



 

食道・胃静脈瘤治療実績

当科における食道・胃静脈瘤治療の我が国における草分けであり、内視鏡的治療法を施行した症例に至っては、現在まで3000例以上を数え、多くの症例を経験しています。
また、腹腔鏡下脾摘術の症例も、1992年から導入し400例以上の症例を経験することで、手術手技を定型化し肝硬変患者にも手術適応を拡大しています。