血管外科

About us

日本外科学会専門医・日本心臓血管外科学会専門医2名(うち修練指導医1名)、日本外科学会専門医1名の計3名で診療を行っています。外来、病棟ともに基本的にチームで診療にあたっております。我々、血管外科医は手術のみではなく、診断、検査、治療(カテーテル治療を含む)と全ての診療過程に携わっています。治療法としても、外科手術(バイパス術、人工血管置換術)以外に、カテーテル治療、内科的治療(薬物療法)、創傷処置(潰瘍・壊疽などの創処置、肢の切断)なども行い、患者さんの症状に応じた治療を選択しています。

対象疾患

  • 疾患名1:腹部大動脈瘤
  • 疾患名2:末梢動脈疾患(下肢閉塞性動脈硬化症[ASO, PAD, LEAD, CLTI]など)
  • 疾患名3:下肢静脈瘤
血管外科の対象疾患は頭頚部、心臓、上行大動脈を除く全身の動脈と静脈の疾患になります。動脈や静脈が詰まったり、膨んだりすることで種々の病態を呈します。上記以外にも、四肢末梢動脈瘤、腹部内臓動脈瘤、内臓動脈解離・狭窄、胸郭出口症候群、鎖骨下動脈盗血症候群、膝窩動脈外膜嚢腫、膝窩動脈捕捉症候群、遺残坐骨動脈病変、深部静脈血栓症、上大静脈症候群、大動脈解離、末梢血管損傷などが挙げられます。

疾患内容 1[腹部大動脈瘤]

大動脈瘤は動脈の壁がもろくなって、正常径の1.5倍以上に拡張する病気です。大動脈瘤はある程度の大きさになると破裂する危険性があり、破裂すると命に関わったり、後遺症が残ったりすることがあります。そのため、破裂する前に治療をすることが重要で、腹部大動脈瘤では5cm以上で治療適応となります。また、いびつな形をしている動脈瘤(嚢状瘤)や、感染・炎症をきたしている動脈瘤、腰痛、背部痛などの症状を有している大動脈瘤も治療の適応です。
 ほとんどの場合が無症状のため、超音波検査(エコー)やCT検査で偶然発見されることが多い病気です。65歳以上の男性、喫煙歴のある65歳以上の女性、近親者に腹部大動脈瘤の方がいる場合には、腹部大動脈瘤になる可能性が高くなりますので、腹部超音波(エコー)などの検査、健診をお勧めいたします。
 腹部大動脈瘤に対する治療は手術しかなく、①開腹手術による人工血管置換術、②ステントグラフト内挿術というカテーテルによる手術、の2つの方法があります。人工血管置換術は動脈瘤部分の大動脈を切開し、人工血管を縫いつけます(図1)。長期成績が安定しており、術後にほとんど再治療の必要がありません。ステントグラフト内挿術は動脈内に留置することで、瘤への血流を遮断します(図2)。両側の股の動脈(大腿動脈)から腹部大動脈内にステントグラフトを挿入します(図3, 4)。小さな切開で治療可能なため、人工血管置換術と比べて、体への負担が少ないのが利点です。欠点として、追加処置が必要となることがある、動脈瘤の形態によっては治療できないなどが挙げられます。
 どちらの治療法が適するかは患者さんによって異なります。人工血管置換術はおなかの手術をされたことがなく、手術のリスクの低い元気な方、血管の形によってステントグラフトが行えない方が適応となります。ステントグラフトは、高齢や持病のため開腹手術のリスクの高い方、以前におなかの手術をしたことがある方に適応となります。
  • 図1
  • 図2
  • 図3
  • 図4

疾患内容 2[末梢動脈疾患]

主に動脈硬化が原因で、四肢の血管(動脈)が狭くなったり、詰まったりする病気です。特に下肢の動脈に多くみられ、血流障害の程度によって、1. 足が冷たい、しびれる、2. 歩くと太ももやふくらはぎの筋肉が痛くなり歩けなくなる(間欠性跛行)、3. 安静時でも足趾が痛む(安静時痛)、4. 潰瘍(傷ができて治らない)、壊疽(足趾が黒くなった状態)などの症状が起こります。
 症状、動脈硬化の程度によって、薬による治療、カテーテル治療、バイパス手術、いずれの治療を行うかを選択していきます。それぞれの治療には利点、欠点があり、患者さん一人一人に適した治療法を考えていくことが重要となります。我々はバイパス手術(図5)、カテーテル治療(図6)の両方の治療に習熟しており、両者を組み合わせた治療(ハイブリット治療)も行っています。
 
  • 図5
  • 図6
 潰瘍や壊疽となった場合、足趾切断や下肢切断(膝下や太ももでの切断)となることがあります。そのため、下肢の血流障害がある患者さんは足趾に傷ができないように予防することが大切です。糖尿病や透析の患者さんは動脈硬化の危険性が高くなりますので、年に1回のABI検査(腕と足に血圧計を巻いて下肢の血流を計る検査)をお勧めいたします(図7,8
  • 図7
  • 図8
 
 

疾患内容 3[下肢静脈瘤]

下肢の血管がぼこぼこと浮き出てみえたり、下肢がむくんだりする病気です。下肢の静脈には逆流を防止するための弁があります。そのために、下肢の血流は足先から心臓に戻る一方通行にしか流れないようにできています。下肢の静脈瘤の患者さんは、この弁の機能がこわれて、足先に血流が逆流することで、下肢がむくむ、だるい、血管がぼこぼこ浮き出るなどの症状が起こります(図9,10)。症状が進行すると下腿内側に色素沈着や皮膚硬化を引き起こします。命に関わる病気ではありませんが、症状のある患者さんは治療の適応となります。
  • 図9
  • 図10
治療法は手術(抜去術)(図11)、レーザー治療やラジオ波治療などの血管内焼灼術(図12)、血管塞栓術(図13)の三通りの手段があります。手術は股のつけねと下腿に二か所切開を加えて、逆流のある静脈を引き抜きます(図11, 抜去術)。レーザー治療やラジオ波治療などの血管内焼灼術は、下腿の静脈に針を刺し、カテーテルを逆流のある静脈内に挿入します。静脈の周囲に局所麻酔を行った後、血管内から静脈を熱で焼いて閉塞させます(図12)。血管内塞栓術は下腿の静脈に針を刺し、カテーテルを逆流のある静脈内に挿入します。静脈内に血液と混ざると固まる物質(シアノアクリレート)を注射し、逆流のある血管を詰めてしまいます(図13)。レーザー治療やラジオ波治療と異なり、静脈のまわりに局所麻酔を注射する必要がありません。そのため、治療中や術後の痛みが少ない利点があります。血管内塞栓術は2019年12月に保険収載された最新の治療で、当院でも積極的に行っています。
 
  • 図11
  • 図12
図13
 
 

実績

大動脈瘤、末梢動脈疾患や静脈瘤に対して年間に約150-200例の治療を行っています(図14)。
図14