呼吸器外科

About us

呼吸器外科では肺がんや転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍、胸膜中皮腫などの呼吸器系悪性腫瘍に対して、診断、手術を中心とした治療、術後補助化学療法や再発に対する外科切除、薬物療法を行っています。また、良性腫瘍や気胸、膿胸などの診断、治療を行っています。当科では年間約250例の呼吸器外科手術を行っており(図1)、胸腔鏡や手術支援ロボット(da VinciXi)を使用した低侵襲手術を積極的に推進しています。
 
図1

対象疾患

  • 疾患名1:原発性肺癌
    肺がんとは、肺を構成する細胞(気管支や肺胞の細胞)が何らかの原因でがん化したものです。日本での肺がん罹患数は年間約12万人、肺がんによる死亡数が約7万人と報告されており、がんによる死因の第1位となっております。
  • 疾患名2:転移性肺腫瘍
    肺は、体に必要な酸素を取り込むために全身の血液が循環する臓器であり、他の臓器にできたがん細胞が、血流にのって肺に運ばれ、転移性肺腫瘍を形成することがあります。消化器癌や婦人科癌、骨軟部腫瘍からの転移性肺腫瘍など、あらゆる臓器からの転移性肺腫瘍に対して治療を行っています。
  • 疾患名3:縦隔(じゅうかく)腫瘍
    縦隔(じゅうかく)とは、胸の中の、特に、両側の肺の間の部位(または空間)を指します。縦隔に発生する縦隔腫瘍には、発生する臓器(組織)により、胸腺上皮性腫瘍やリンパ腫、神経原性腫瘍など様々な腫瘍があります。
  • 疾患名4:気胸
    気胸とは何らかの原因によって肺に穴があき、空気が胸腔内に漏れ、肺がしぼんでしまう病気です。嚢胞(のうほう)という壁の薄い小さな風船のような構造物が肺の表面に発生し、破れることが原因の一つです。

疾患内容 1[原発性肺癌]

治療法は、がんの進行度と全身状態をもとに検討します。手術可能な比較的早期の肺がんについては、肺葉切除とリンパ節郭清を行います。さらに早期の肺がん場合は、肺の切除量が少ない縮小手術(区域切除や部分切除)を行うこともあります。進行した肺癌においては、呼吸器科、放射線科の先生と合同で治療方針を検討したうえで、手術前後に抗がん剤や放射線治療に手術を組み合わせた集学的治療を行います。呼吸機能を含む、術前の検査によって安全に最大限に配慮した治療方法を選択しております。
多くの手術を胸腔鏡というカメラを用いた、いわゆる完全胸腔鏡視下により行っております。従来の開胸手術では背中から、胸の横にかけて30cmほどの傷が必要でしたが、完全胸腔鏡視下による手術の傷は、胸の横に約 1-2cmの 3、4か所となります。そのうち、肺を取り出すために 1つの創は 3-4cmに広げます。年間約120例の肺がん手術を行っており、通常、術後1週間ほどで退院可能となります。2018年からは手術支援ロボット(da VinciXi)を使用したより低侵襲な手術も積極的に行っており(図2)、2021年は約1/3の肺癌手術において手術支援ロボット(da VinciXi)を使用しました。
 
  • 図2 ロボット手術 術前
  • 図2 ロボット手術 術者
2021年 原発性肺癌 手術内訳

疾患内容 2[転移性肺腫瘍]

転移性肺腫瘍においては自覚症状がないことが多く、原発腫瘍(元の臓器のがん)の経過観察中に画像検査で発見されることがほとんどです。
治療方針は原発腫瘍ごとに異なりますが、原発腫瘍が切除または根治され、肺以外に再発がなく、すべての転移巣が切除可能であるなど、いくつかの条件を満たせば、肺病変に対する手術が行われます。手術は多くの場合、胸腔鏡を用いて、腫瘍周囲の肺の一部を切除する肺部分切除や区域切除が行われますが、腫瘍の位置や原発腫瘍によっては肺葉切除など、より肺を大きく切除する術式を選択することもあります。また、最近は複数回の手術や両側の同時切除などを行う機会も増加しています。
 
2021年 転移性肺腫瘍 手術内訳

疾患内容 3[縦隔(じゅうかく)腫瘍]

縦隔に発生する縦隔腫瘍には、発生する臓器(組織)により、胸腺上皮性腫瘍やリンパ腫、神経原性腫瘍のほか、甲状腺腫、心膜嚢胞(のうほう)、気管支原性嚢胞など、様々な種類があり、悪性腫瘍・良性腫瘍のどちらの可能性もあります。CT検査やMRI検査などの画像検査で発見されますが、腫瘍の種類を画像で診断することは難しく、診断と治療を兼ねた手術を行うことが一般的です。そのため、手術の後に診断がつくことが多いです。
良性の縦隔腫瘍は、切除することで完全に治りますが、悪性の縦隔腫瘍の中には、放射線治療や化学療法が必要となることもあり、再発することもあります。縦隔腫瘍に対しても、胸腔鏡や手術支援ロボット(da VinciXi)を使用した低侵襲手術を積極的に推進しています。
 
2021年 縦隔(じゅうかく)腫瘍 手術内訳

疾患内容 4[気胸]

気胸は20歳前後の長身、痩せ型の男性に発症しやすい傾向がありますが、喫煙者で栄養状態が悪い高齢者にも起こります。症状は、突然の胸の痛み、息苦しさ、咳などで、胸部X線や胸部CT検査で診断されます。
肺のしぼみ具合が軽度の場合は、外来で経過観察可能ですが、中等度以上の場合は、局所麻酔下に「ドレーン」という管を胸の中に入れてたまった空気を外に出す、「胸腔ドレナージ」という処置が必要です。初発の気胸はドレナージのみで治癒することもありますが、空気漏れが止まらない場合、CTにて嚢胞が認められる場合には手術が勧められます。ドレナージのみで治癒できた場合でも再発率は30-50%と高く、再発時には手術が勧められます。手術は全身麻酔下に、胸腔鏡というカメラを用いて、原因となっている空気漏れの場所(嚢胞)を同定し、切除または結紮する方法が一般的です。
 

実績

肺グループでは年間250例前後の手術をここ数年継続して行っております。前述の通り、低侵襲で患者さんの負担の少ない、鏡視下手術の割合が増加傾向です。中でも、3次元の視野でより精密な操作が可能なロボットを使用した鏡視下手術を積極的に推進しており、2021年12月時点で症例数は通算100例を超えております。引き続き安全性に最大限に配慮した、患者さんにメリットの大きい手術、治療を提供して参ります。
 
原発性肺癌手術症例の病理病期*別の治療成績 (2003年〜2016年)